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「ソムリエ」「ペアリング」という言葉に、違和感を覚える理由

連載|テーブルの仲人の考えごと 第05回


「ソムリエ」とは本来、ワインの専門家を指す資格です。しかし、日本酒・ノンアルコール・ローアルコールへと領域が広がる今、シェ・フルール横濱の本郷孝人は「ソムリエ」という肩書きではなく「ビバレッジコーディネーター」を名乗ることを提案します。ワインペアリングから「ワインコーディネート」へ、そして「ビバレッジコーディネート」へ。言葉の変化の背景にある現場の思考を読み解きます。


横浜のホテルバーからキャリアを始め、インポーター営業、総合食品酒類販売、量販店の現場管理、ラグジュアリーホテルのソムリエまで、料飲の現場を多角的に歩んできた本郷孝人が、テーブルを囲むゲストとお料理、そしてドリンクの“あいだ”に立つ仲人の視点から、日々のサービスで考えていることを綴る連載。第5回のテーマは「ソムリエという肩書き」。ワインに留まらず、日本酒・ノンアルコール・ローアルコールへと領域が広がる時代に、サービスマンはどう自らを名乗るべきなのか。


文|シェ・フルール横濱 本郷 孝人 記事構成|Apoptosis 尾崎 眞子



目次

  • 「ソムリエ」とは、本来どんな資格なのか――公式定義から紐解く

  • ソムリエという肩書きへの違和感

  • 「ビバレッジコーディネーター」という、お客様からいただいた新しい称号

  • 30年前の現場で見たソムリエの役割

  • プリフィクスからペアリングへ、そしておまかせ×ペアリングという二次元の闇

  • アラカルトへの原点回帰

  • 総括――「選ぶ」をテーマに、ビバレッジコーディネーターとして



「ソムリエ」とは、本来どんな資格なのか――公式定義から紐解く、肩書きの実像



ソムリエについてGoogleで検索すると、かいつまんで以下のようなことが明記されています。


ソムリエという呼称は、1969年に設立された日本ソムリエ協会が、1986年に国際ソムリエ協会(ASI)に加盟し、この協会が試験を実施して、その合格者をソムリエとして認定する民間資格

さらに「ソムリエとは」と検索すると、こう出てきます。


ソムリエ(Sommelier)は、レストランなどでワインや飲料の専門知識とテイスティング能力を活かし、顧客の好みや料理に最適なワインを提案・提供するプロフェッショナルです。単なる給仕ではなく、ワインの選定、管理、顧客へのサービスを通じて、心地よい空間と食の時間を演出します。

ソムリエの主な特徴・業務


  • 専門的提案:料理、顧客の予算、好みに合わせてワインを選定・アドバイス

  • ワインサービス:正確かつ美しい立ち居振る舞いで、適切な温度・グラスでワインを提供

  • 管理・運営:ワインの仕入れ、在庫管理、セラー整理(管理・補充)

  • 知識とスキル:世界中のワイン知識、テイスティング能力に加え、高いホスピタリティが求められる

  • 資格:日本ソムリエ協会(J.S.A.)や全日本ソムリエ連盟(ANSA)などが認定する資格が一般的。受験には飲食サービス等の実務経験が必要


そしてもう一つ、注目すべき記述があります。


2015年度まではソムリエ受験資格は、ワイン、アルコール飲料を提供する飲食サービス業に5年以上(日本ソムリエ協会の会員歴が3年以上ある場合は3年以上)従事したことがあるもの、とされていた。しかし、OIV(国際ぶどう・ぶどう酒機構)で『ワイン・酒類・飲料の仕入れ、管理、輸出入、販売、教育機関、酒類製造に従事するもの』もソムリエである、と定義されたことにより、2016年からソムリエとワインアドヴァイザーの呼称統一が行われた。

ここから紐解けることとして、ソムリエという肩書きを持つ方々が全て同じではないということが、想像できると思います。

実際に自分はワインの営業職として多くのソムリエという肩書きを持つ方々にお会いし、その方々の生い立ちから、様々なタイプの方々が存在していることを身をもって経験してきました。



ソムリエという肩書きへの違和感――ワイン以外の領域が広がる時代に、ふさわしい呼称とは


自分のソムリエという資格に対する捉え方は、ホテルやレストランのサービスに従事する者として、持っていて然るべき資格の一つとして考えています。


昨今の世間的には、ソムリエという言葉が一人歩きして、〇〇ソムリエなどの呼称が生まれ、それぞれの世界に精通している人のようにもなっているように感じています。

実際に自分が今従事していることを考えてみても、ワインはもちろん、日本酒やその他のアルコール、ノンアルコールのことなど多岐にわたっています。いつの頃からか、ソムリエという肩書きに違和感を感じるようにもなりました。



実際に現場でのサービスも、ソムリエというよりも、ワインコーディネーターなのかなとも感じています。


全日本ソムリエ連盟(ANSA)が認定する、ワインの知識、テイスティング、サービス、マリアージュ(料理との相性)提案能力を証明する民間資格です。ソムリエが主に飲食店で働くのに対し、ワインコーディネーターは販売店やイベントなど、より幅広いシーンで顧客にワインの楽しみ方を提案する役割を担います。

Google AI検索より


シェ・フルール横濱でも、お店のメニューを「ワインペアリング」ではなく「ワインコーディネート」としており、そこから波及して、ノンアルコールコーディネート、日本酒コーディネート、ローアルコールコーディネートというメニューにしています。


つまり、昔自分が経験したレストランのサービスで、ワインのご要望に対してソムリエが対応するようなサービスではなく、ビバレッジ(ドリンク)の全てを多角的に考えたサービスを考え、対応しているというのが現状です。



「ビバレッジコーディネーター」という、お客様からいただいた新しい称号――ワイン・日本酒・ノンアル・ローアルを横断する


そんな中、先日約1年ぶりにご来店されたお客様から、嬉しい出来事がありました。

様変わりしたドリンクメニューをご覧になり、そのお客様が飲食業に精通していたということもあったからか、自分のサービスに対して「ビバレッジスペシャリスト、はたまたビバレッジコーディネーター」という称号と、「楽しかった」とのお褒めの言葉を頂戴したのです。



そのご夫妻のご主人様は、ワインコーディネートに日本酒をミックス。奥様は、ローアルコールにノンアルコールをミックス。そんなお飲み物の選び方からも、ソムリエよりはビバレッジコーディネーターのほうがしっくりきた瞬間でもありました。

ということで、お客様からのお墨付きということで、自称「ビバレッジコーディネーター」で活動していこうかなと(笑)、思いつつ、さらなるバージョンアップをしていきたいと考えています。



30年前の現場で見たソムリエの役割――アラカルトとワインリストが躍動した、テーブルマリアージュの原点


今から30年以上前に、実際の現場で経験したソムリエの役割は、お客様がオーダーした、アラカルトからコース料理に至るまで、それに合わせてそれに合うワインをレコメンドするというものでした。


例えば、3人でご来店され、お一人様はシェフのおすすめコース、お一人様は前菜−メイン−デザートのショートコース、お一人様はアラカルト──というようなテーブルのオーダーに対し、ワインリストから、お客様と会話しながらワインをレコメンドしていく。

これがしっかりと決まっていく様は、何とも心地よく、その一つのテーブルが躍動感とともに盛り上がることで、お店全体を盛り上げていく効果につながる──今、自分が唱えるテーブルマリアージュの原点の一つとなる瞬間であったと感じています。


このようなオーダーは、料理人目線で言えば、面倒なことかもしれません。ですが、これをタイミングよく仕上げることで、料理人もサービスマンも切磋琢磨して、それぞれのスキルアップにつながっていたと考えています。



プリフィクスからペアリングへ、そしておまかせ×ペアリングという二次元の闇――失われた30年で起きたこと


その後、レストランのコースメニューにプリフィクスなるものが登場することになります。

お客様それぞれが、複数用意された前菜・メイン・デザートから、好きなものを選ぶ。そしてそれらに合わせるように、ワインのバイザグラスでの提供が必要となり、ペアリングという概念が広まっていったと考えています。



ここまでは、お客様目線で言えばとても良いことであったと思います。一方で、これはやり方次第では、お料理もワインもロスという現実に背中合わせな状況に置かれるという、リスキーなことでもありました。


そして、このリスキーな状況を回避すべく、おまかせコース×ペアリングという、二次元の闇に突入していくということになっていきます。

おまかせコース。ある意味、聞こえも良く、それにどのワインを合わせるかを決めておけばロスもなく、お店側としてもハッピーな仕組みではあります。


一方で

  • メニューの必要がなくなる

  • 「選ぶ」ということがなくなる

  • 会話がなくなる

  • サービスマンの質が低下する

  • 決められたものだけを作り続けることで、料理人の質の低下にもつながる


──そうして、暗黒の30年、失われた30年を過ごす結果となったように感じています。

これは、お客様自身も考えることをしなくなるということでもあります。ある意味での質の低下、ひいては「粋」なお客様がいなくなるという状況になる原因にもなったと感じています。



アラカルトへの原点回帰――「選ぶ」を取り戻し、料理人もサービスマンもお客様も切磋琢磨する


自分は、屋台のおでんやさんでも、お寿司屋さんでも、フランス料理店でも、しっかりと注文でき、立ち振る舞えるようにと、実父から幼少の頃より仕込まれたことを記憶しています。このことは、改めて実父に感謝するとともに、飲食の世界に興味を持つきっかけでもありました。


過去に料理人にもなろうと考えたこともありましたが、巡り巡って、今はサービスマンとして、お客様に「楽しい」を提供するということに徹することに辿り着きました。


原点回帰という思いで、30年前に感じたようなアラカルトを含めた「選べる」という状況を提供し、いつかお客様に言われた「美味しいのは当たり前、楽しいお店が良いお店」という言葉を胸に刻み、日々精進。自らもサービスマンという志事(しごと)を、心から楽しみたいと考えています。



総括――「選ぶ」をテーマに、ビバレッジコーディネーターとして

お店のコンセプトマッチングから、「選ぶ」ということをテーマに、お客様に楽しんでいただけるような状況を作り上げるベースは、できるようになってきたと考えています。

ここに至るには、Apoptosis 尾崎さんとの出会いがなければ成し得なかったことであり、さらにはこのような連載の機会をいただき、自分のこれまでの思いや考えを表現することができていることを嬉しく思いつつ、この場を借りて改めて感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。


これからも、しっかりとお客様に伝わるよう、アップデートを怠らず、全てのお客様に楽しんでいただけるサービスを提供していきたいと考えています。



執筆者プロフィール

本郷 孝人(ほんごう たかひと) シェ・フルール横濱

ビバレッジコーディネーター


1971年、神奈川県横浜市生まれ。高校卒業後、大学在学中より横浜のホテルのバーからバーテンダーとして料飲サービス業のキャリアをスタート。都内のホテルに勤務したのち、総合酒類小売業、輸入ワインおよび洋酒業、総合食品酒類卸業で、ヴーヴ・クリコ・ジャパン、MHD(モエ・ヘネシー・ディアジオ)などを経て、約25年間にわたり営業職として従事。2019年より飲食店サポート業務を手がけつつ、再びサービス業界へ。福岡のフレンチ「アニオン」、箱根リトリートホテル&ヴィラ by 温故知新、ウエスティンホテル横浜のメインダイニング「アイアンベイ」での勤務を経て、2025年8月よりシェ・フルール横濱の現職。バー、ホテル、インポーター、ディストリビューター、量販店、そしてサービスの現場―飲料をめぐるあらゆる立場を経験してきた視点から、「テーブルマリアージュ」というキーワードを軸に、料飲のあり方を探求し続けている。



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