アルコール度数7%という設計が、テーブルを四次元・五次元に広げる
- 本郷 孝人

- 9 時間前
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ローアルコール導入でゲストのニーズを掘り起こす
連載|テーブルの仲人の考えごと 第01回
横浜のホテルバーからキャリアを始め、インポーター営業、総合食品酒類卸売、量販店の現場管理、ラグジュアリーホテルのソムリエまで、料飲の現場を多角的に歩んできた本郷孝人が、テーブルを囲むゲストとお料理、そしてドリンクの"あいだ"に立つ仲人の視点から、日々のサービスで考えていることを綴る連載。第1回のテーマは「ローアルコールという第三のカテゴリー」。アルコールかノンアルコールか、という二者択一では取りこぼされてきたゲストのニーズに、食中酒としてのローアルコールをどう設計して応えていくのか。現場で辿り着いた4つの原則を読み解きます。
文|シェ・フルール横濱 本郷 孝人
記事構成|Apoptosis 尾崎 眞子
なぜいま「ローアルコール」というカテゴリーが必要なのか?現場で見えた”飲み進まないカクテル”の正体
実際のサービスの現場で、気になる場面がありました。
「ビールの苦味が苦手」「ワインはすぐに酔ってしまう」といった理由でカクテルを選ばれたものの、実際にはあまり飲み進んでいない──そんなゲストのご様子を目にする機会が、少なくなかったのです。

カクテルは本来、バーテンダーが技術を凝らして作り上げる一杯です。ただ、お料理と一緒に少しずつ楽しむという文脈では、アルコール度数も、提供される量も、グラスの形も、必ずしも食中酒として最適化されているとは限りません。
では、なぜ飲み進まないのか。
そこを考えていくなかで辿り着いたのが、ローアルコールという第三のカテゴリーを、食中酒として意図的に設計し直すという発想でした。
食中酒を三次元で捉える──アルコール・ノンアルコール・ローアルコールという整理
従来、料飲の現場では、飲み物は「アルコールかノンアルコールか」という二次元の選択肢で捉えられてきました。アルコールにはビール、ワイン、カクテル、日本酒ほか。ノンアルコールにはジュースやお茶ほか。この二つのカテゴリーのあいだをゲストが行き来する、というかたちです。

ここに、一般的にアルコール度数8〜10%未満として定義づけされているローアルコールを導入することで、食中酒の世界は三次元に広がります。
<食中酒としてのアルコール度数カテゴリ>
アルコール → 20%未満
ノンアルコール → 0%
ローアルコール → 8〜10%未満
この三次元のカテゴライズが成立することで、食中酒としてアルコール度数20%未満のニーズを網羅でき、それぞれのカテゴリーを充実させていくことが可能になります。結果として、ゲストのニーズをより深く掘り起こし、お客様満足度の向上と、多次元的なテーブルマリアージュが実現していく──これが、取り組みの出発点です。
ローアルコールを設計する4つの原則──美味しさ・量・グラス・オペレーション
飲み進まないカクテルの背景を掘り下げていくなかで、ローアルコールを食中酒として機能させるために必要な、4つの原則に行き着きました。
① アルコール度数7%で揃える──フルーツワイン、ミード、リキュールサワーというセレクト
まず大切にしたのが、ワインをはじめとするアルコールや、ボトリングティーやジュ・ド・レザン(葡萄ジュース)などのノンアルコールで取り組んできた「美味しさの追求」を、ローアルコールにおいても改めて徹底するということです。
シェ・フルール横濱では、ローアルコールの定義を独自にアルコール度数8%未満と設定し、アイテムを選定していきました。結果として辿り着いたのが、フルーツワイン、ミード(国産の蜂蜜酒)、リキュールをソーダで割ったサワーという3種類です。
これらのアルコール度数が、いずれも約7%で揃ったことで、次のようなご案内が自然に成り立つようになります。
「ノンアルコールはもちろんアルコール度数0%、ワインや日本酒などのアルコールは約15%。ローアルコールはその半分ほどの約7%ですので、アルコールがあまり強くない方にもおすすめできます」
数値で語れるカテゴリーになることで、ゲストにも、スタッフにも、立ち位置が伝わりやすくなります。
アルコール度数7%は、アルコールを嗜む日本人の嗜好性から辿り着いた到着点でもあると思います。
アルコール缶飲料製造各社が、販売されているサワーやハイボール等のアルコール度数のほとんどが、7%であることも膨大な日本人の嗜好のデータから裏付けされた事実であり、ローアルコールのアルコール度数を約7%とカテゴライズすることも、日本人にとっては、見慣れた安心感のある数値、飲み慣れた馴染みのある味わいではないかと思います。
それを一目瞭然に表現されているのが、スーパーやコンビニ各社のアルコール缶飲料のリーチインの売場であり、一部の商品を除いて、そのほとんどがアルコール度数約7%となっています。

② ワイングラス100〜150mlで提供する──“カクテル”ではなく”食中酒”として出す理由
お料理がコースということもあり、テーブルマリアージュの観点から、ローアルコールについてもアルコールやノンアルコールと同様に、一杯あたり100〜150mlを目安とし、さまざまな形状のワイングラスでご提供するようにしました。

ここが、いわゆるバーで提供される「カクテル」との大きな違いです。カクテルグラスやロックグラスで出すのではなく、ワインと同じ器・同じ量で揃える。器を揃え、量を揃えることで、ゲストが思い思いに楽しめる環境が自然と整ってきたように感じています。
③ 3アイテム・3アクションのオペレーション──バーテンダーではなく、サービスマンが作る一杯
サービスの品質を支えるのは、オペレーションです。
シェ・フルール横濱では、サワーを作る際に、使用するアイテムは3つまで、作成手順も3つまでと決めています。これは、テーブルマリアージュの流れを崩さないための、私たちなりの線引きです。
バーテンダーが作り上げる渾身の一杯のカクテルではなく、お料理とともに楽しんでいただくために、サービスマンが作る渾身の一杯の食中酒であること。そこに軸を置きながら、美味しさを追求していく。手数を絞ることは、妥協ではなく、むしろサービス全体の設計上の選択です。
④ セールストークが生むミックスオーダー──“ワンモアバイ”は、こうして起きる
度数を揃え、グラスを揃え、オペレーションを整えたことで、予想以上の相乗効果が生まれました。
ノンアルコールとローアルコール、ローアルコールとアルコールを組み合わせるミックスオーダーが自然と増えていき、三次元のカテゴライズが、四次元・五次元のテーブルマリアージュへと広がっていったのです。
結果として「ワンモアバイ(もう一杯)」の売上増につながったことはもちろんですが、正直、驚きも大きかったというのが本音です。ローアルコールを導入し、カテゴライズして、ゲストのニーズを掘り起こせたことを実感した瞬間でもありました。
食事6:飲料4の黄金比──ローアルコールが支える、心地よいレストランの設計思想
お料理と飲み物の売上黄金比は6:4。
ときに高額なワインをご注文いただくことは、とてもありがたいことです。それを大前提としたうえで、飲み物のメニュー構成を考えるときに大切にしているのは、お店のコンセプトとお料理があっての飲み物である、という視点です。

ワインに特化したワインバーのような業態では、必ずしもこの比率が当てはまらないケースもあります。ただ、この6:4の黄金比でテーブルマリアージュが実現できているお店が、結果として心地よいお店になっているのではないかと、今はそう感じています。このあたりは、またいつかの機会に掘り下げてお話しできればと思います。
ローアルコールというカテゴリーは、この黄金比のなかで、これまで取りこぼしていたゲストのニーズを丁寧に拾い上げるための、重要なピースだと感じています。
アルコール度数20%未満の世界で、これからできること
これまで、アルコールをメインにレストランのドリンクメニューを組み立てることに時間を費やしてきました。ですが、世界を震撼させたパンデミックを経験したことで、ノンアルコールのクオリティが急激に向上し、そのマーケットが急速に広がっていったことには、正直、今でも驚いている、というのが本音です。
一方で、アルコール度数20%未満というフィールドからレストランのドリンクメニューを考え、組み立てていくことに携われるのは、お客様満足度の向上を第一に考えるサービスマンとしては、冥利に尽きることであり、素直に嬉しく感じています。
今回はローアルコール導入を切り口にお話ししましたが、言うまでもなく、店舗コンセプトに合わせて選定するワインをはじめとするアルコールへの理解、そしてノンアルコールへの理解、さらにはノンアルコールサプライヤーであるApoptosisさんの存在が不可欠であることは、改めてここに言葉として残しておきたいと思います。
今後しばらくは、個々のアイテムを訴求していくのではなく、このカテゴライズをベースに、さらにゲストのニーズを掘り起こし、美味しさを追求し、お客様満足度の向上を目指して取り組んでいきたいと考えています。
総括──思い思いの飲み物で食事を楽しむ、テーブルマリアージュのかたち
アルコール、ノンアルコール、ローアルコール。そして、お料理とともに楽しむアルコール度数20%未満の世界。テーブルをともにするゲストが、それぞれ思い思いの飲み物で食事を楽しむ、テーブルマリアージュ。
この考え方のきっかけとなった出来事は、数十年前に訪れたパリのビストロでのことでした。男性4人のテーブルで、それぞれがアラカルトでお料理をオーダーしたあと、その料理に合わせるかのように、4人ともが異なるボトルワインをオーダーして、思い思いに楽しんでいる──その光景を目にし、羨ましく思えたことが、今のテーブルマリアージュの考え方につながっているように感じています。

今後の課題については、すでに目星はついています。お茶を除いたノンアルコールとローアルコールのカテゴリーで、「甘くないアイテム」の導入を現在鋭意検討しているところです。また、ノンアルコールのカテゴリーでは、コース料理の最後にご提供するノンアルコールのアフタードリンクの開発にも取り組んでいます。
このあたりについても、またいつかの機会に掘り下げてお話しできたらと思います。
執筆者プロフィール
本郷 孝人(ほんごう たかひと) シェ・フルール横濱
1971年、神奈川県横浜市生まれ。
高校卒業後、大学在学中より横浜のホテルのバーからバーテンダーとして料飲サービス業のキャリアをスタート。都内のホテルに勤務したのち、総合酒類小売業、輸入ワインおよび洋酒業、総合食品酒類卸業で、ヴーヴ・クリコ・ジャパン、MHD(モエ・ヘネシー・ディアジオ)などを経て、約25年間にわたり営業職として従事。2019年より飲食店サポート業務を手がけつつ、再びサービス業界へ。福岡のフレンチ「アニオン」、箱根リトリートホテル&ヴィラ by 温故知新、ウエスティンホテル横浜のメインダイニング「アイアンベイ」での勤務を経て、2025年8月よりシェ・フルール横濱の現職。
バー、ホテル、インポーター、ディストリビューター、量販店、そしてサービスの現場──飲料をめぐるあらゆる立場を経験してきた視点から、「テーブルマリアージュ」というキーワードを軸に、料飲のあり方を探求し続けている。




