「コーヒーか紅茶」から「14種類から選ぶ」へ
- 本郷 孝人

- 5月6日
- 読了時間: 8分
更新日:5月18日
アフタードリンクで"美味しかった"を"楽しかった"に変える理由
連載|テーブルの仲人の考えごと 第2回
アフタードリンクとは、コース料理の締めくくりに提供されるコーヒー・紅茶などの飲み物のこと。シェ・フルール横濱では「コーヒーか紅茶」という二択を廃止し、14種類から選べるアフタードリンクを導入。食事全体の高揚感を最後まで維持し、「美味しかった」から「楽しかった」「また来たい」へとつなげる実践的な取り組みを紹介します。
横浜のホテルバーからキャリアを始め、インポーター営業、総合食品酒類卸売、量販店の現場管理、ラグジュアリーホテルのソムリエまで、料飲の現場を多角的に歩んできた本郷孝人が、テーブルを囲むゲストの"あいだ"に立つ仲人の視点から、日々のサービスで考えていることを綴る連載。第2回のテーマは「アフタードリンク」。30年間ほとんど進化してこなかったこの領域に、選ぶ楽しさをどう持ち込むのか。「美味しかった」で終わらせず、「楽しかった」、そして「また来たい」へとつないでいくための、現場からの提案です。
文|シェ・フルール横濱 本郷 孝人
記事構成|Apoptosis 尾崎 眞子
目次
なぜアフタードリンクは、30年間進化してこなかったのか
「コーヒーか紅茶」では高揚感は急降下する
14種類から選べるアフタードリンクという設計
大倉陶園のカップで、ゲストの様子に合わせて提供する
これから整えていく領域──日本茶・コールドドリンク・ヴァンショー
総括──アフタードリンクという「終わりの始まり」
なぜアフタードリンクは、30年間進化してこなかったのか──現場で感じ続けてきた"寂しさと憂い"
もう今から30年以上前、横浜のホテルのメインダイニングで従事していた時代のことです。メイン料理の食器を下げ、食事の最後にアフタードリンクを伺って提供するのは、一番下っ端であった自分の仕事でした。

「お食事の最後に、コーヒーか紅茶をご用意させていただきます」と伺っていた、あの頃から時は流れて30年。変化したことと言えば、コーヒーか紅茶にエスプレッソやハーブティーが加わった程度で、その仕事はやはり、アルバイトや経験の浅いスタッフが対応するオペレーションであること──そこに、なんだか寂しさと憂いを感じていました。
仮に、コーヒー豆や茶葉を厳選していたとしても、サービスオペレーションが軽視されているようにゲストが感じてしまうようでは、その良さは伝わりません。さらには、食事の始めから、お料理や飲み物を説明しお選びいただく楽しさや高揚感とは、程遠いものとなってしまいます。高揚感をそのままにつなげるのではなく、最後に「コーヒーか紅茶」の選択肢で淡々とサービスしてしまうことで、むしろお店の方からその高揚感を急降下させて、「美味しかった」で終わらせるサービスが、30年を経過しても進化していない──その状況を、残念に感じていました。
"コーヒーか紅茶"では、高揚感は急降下する──「美味しかった」から「楽しかった」へ、視点を変える
そこで考えたのが、コースを選ぶ、お料理を選ぶ、お飲み物を選ぶことと同様に、アフタードリンクも選んでいただくようにすることでした。

食事の始めから積み上げてきた高揚感をそのままに、「美味しかった」から「楽しかった」、さらには「また来たい」へとつなげていくこと。それを目標に、プレゼンテーションとしてのアフタードリンクを組み立て直せないかと考えたのです。
これは、第1回でお話ししたローアルコールの導入と同じ発想でもあります。アルコールかノンアルコールかという二者択一で取りこぼされてきたゲストのニーズに、第三のカテゴリーとしてのローアルコールで応える。それと同じように、「コーヒーか紅茶」という限られた選択肢で取りこぼされてきた最後のひとときを、選ぶ楽しさで丁寧に拾い上げていく。カテゴリーは違えど、根っこにある考え方は同じです。
第1回の記事はこちら
14種類から選べるアフタードリンクという設計──コーヒー8種、紅茶3種、ハーブティー2種、日本茶1種の構成
運良く、人員不足で使用できていなかった某メーカーのカプセルコーヒーがありましたので、まずはこれを改めて整えることにしました。
コーヒーは、シーズナル(季節毎に変更)、浅煎り、中煎り、深煎り、オーガニック、フレーバー(季節毎に変更)、エスプレッソ、カフェインレスの8種類から選べるようにしました。そこに、アールグレイ、イングリッシュブレックファースト、スペシャルセイロンの紅茶3種類、ミントベース(カフェインレス)と静岡産の煎茶ベースのオリジナルブレンドのハーブティー2種類、そして福岡産の茎焙じ茶を加え、コーヒーとお茶で全14種類のアフタードリンクを用意しました。

シェ・フルール横濱のアフタードリンク構成
コーヒー:シーズナル/浅煎り/中煎り/深煎り/オーガニック/フレーバー/エスプレッソ/カフェインレス(計8種)
紅茶:アールグレイ/イングリッシュブレックファースト/スペシャルセイロン(計3種)
ハーブティー:ミントベース(カフェインレス)/静岡産の煎茶ベースのオリジナルブレンド(計2種)
日本茶:福岡産の茎焙じ茶(計1種)
導入してまだ間もないですが、正直、盛り上がります。お客様も身を乗り出して選ばれています。
※ドリンク構成は2026年4月現在。今後アップデートする可能性があります。
大倉陶園のカップで、ゲストの様子に合わせて提供する──選ぶ喜びを、道具でさらに立体化する
アフタードリンクには大倉陶園さんのカップを使用しており、可能な限りお客様の様子に合わせてカップを選んで提供しています。ここにも、さらにプラスの効果をもたらしてもらえるようになったのではないかと感じています。
そして何より嬉しいのは、「美味しかったから楽しかった」というお言葉をいただけるようになっていると実感できるようになったことです。
とは言え、まだまだ道半ばであることは、よくよく認識しています。厳しいご指摘の口コミをいただくこともあります。このアフタードリンクのサービスは、コスト面からもディナーコース限定であり、ランチコースへの導入は今後の課題です。
これから整えていく領域──日本茶、コールドドリンク、ヴァンショーという次の一手
コーヒーは、シーズナルやフレーバーを季節毎に変更していくことが決まっています。今後は、紅茶、ハーブティー、日本茶についても、美味しさを追求して楽しんでいただけるような選定をしていきたいと考えています。
特に力を入れたい、日本茶という領域
特に力を入れていきたいのが、今のところは1種類にとどまっている日本茶です。前職で海外のお客様から「なぜ、日本ではお茶が無料なのか?」と聞かれる機会が何度もありました。そのような経験から、日本茶の価値観を高めて紹介していく機会がないかと考えていました。産地やタイプをはじめ、直近で考えているのは、新茶を提供することです。アフタードリンクから季節感を感じていただきたい、という発想です。

コールドドリンクと、冬のヴァンショー
あとは、まだまだ構想段階ではありますが、それぞれのカテゴリーでのコールドドリンクの導入です。これからの気温の上昇を鑑みて、最低でも1種類のスペシャルコールドリンクを導入して、全15種類のアフタードリンクを用意していきたいと考えています。
また、冬場には、昨冬に試験的に一部のお客様のリクエストにお応えして提供したヴァンショー(ホットワイン)を、アフタードリンクに導入できたらと考えています。

総括──アラカルト化の準備と、アフタードリンクという「終わりの始まり」
これまではアフタードリンクの提供が、コースの最後を告げるような位置付けだったところから、アフタードリンクを選べるようにプレゼンテーションして提供するようになったことで、「美味しかった」から「楽しかった」へ、さらには次回のご来店へとつながることを予感させる「終わりの始まり」が提供できるようになったと感じています。高揚感を急降下させることなく、最後まで楽しい時間を過ごしていただけるようになった──そんな手応えを感じています。
ノンアルコール分野からは少し離れますが、メイン料理の後には、これまで提供していなかったチーズの盛り合わせを追加できるように整えました。さらには、デザートワインをはじめ、マール、グラッパ、ブランデー等、食後酒も充実させてご用意し、一部のリクエストに応えつつ、食事の流れの啓蒙にも取り組んでいます。
日本のように、色々な食材から作り出される食事と、国内外の多種多様なハイクオリティな飲み物を楽しめる国は、他には類を見ないのではないかと思います。もちろん、何かに特化して楽しむことも素敵なことだと思います。ですが、様々なライフサイクルの中で、各々の趣味嗜好に合わせた服やアクセサリーを選び楽しむように、食事の場面でも、選び楽しむ環境を提供できたらと思っています。
ご家族親子三代でご来店されるお客様もたくさんいらっしゃる中で、アルコール、ノンアルコール、ローアルコール、アフタードリンクを充実させてきました。稀にお水だけのお客様もいらっしゃるのも事実ですが、ぜひドリンクのメニューをご覧いただき、お飲み物とともに素敵な時間をさらに楽しく過ごしていただきたいと思っています。
執筆者プロフィール
本郷 孝人(ほんごう たかひと) シェ・フルール横濱 ビバレッジコーディネーター
1971年、神奈川県横浜市生まれ。高校卒業後、大学在学中より横浜のホテルのバーからバーテンダーとして料飲サービス業のキャリアをスタート。都内のホテルに勤務したのち、総合酒類小売業、輸入ワインおよび洋酒業、総合食品酒類卸業で、ヴーヴ・クリコ・ジャパン、MHD(モエ・ヘネシー・ディアジオ)などを経て、約25年間にわたり営業職として従事。2019年より飲食店サポート業務を手がけつつ、再びサービス業界へ。福岡のフレンチ「アニオン」、箱根リトリートホテル&ヴィラ by 温故知新、ウエスティンホテル横浜のメインダイニング「アイアンベイ」での勤務を経て、2025年8月よりシェ・フルール横濱の現職。バー、ホテル、インポーター、ディストリビューター、量販店、そしてサービスの現場──飲料をめぐるあらゆる立場を経験してきた視点から、「テーブルマリアージュ」というキーワードを軸に、料飲のあり方を探求し続けている。




