打倒AIから、AIと共存へ。ChatGPTが答えられないことを、サービスの現場から語る
- 本郷 孝人

- 2 日前
- 読了時間: 7分
決め手は美味しさとストーリー
連載|テーブルの仲人の考えごと 第11回
横浜のホテルバーからキャリアを始め、インポーター営業、総合食品酒類卸売、量販店の現場管理、ラグジュアリーホテルのソムリエからビバレッジマネージャーまで、料飲の現場を多角的に歩んできた本郷孝人が、テーブルを囲むゲストとお料理、そしてドリンクの”あいだ”に立つ仲人の視点から、日々のサービスで考えていることを綴る連載。第11回のテーマは「ノンアルコールドリンクの選択」。何を基準にアイテムを選ぶのか。そして、ワインのことを最も詳しく教えてくれるのがソムリエでもバーテンダーでもなくなった時代に、サービスの現場から何を伝えられるのかを読み解きます。
文|シェ・フルール横濱 本郷 孝人
記事構成|Apoptosis 尾崎 眞子
選択の大前提は、コンセプトマッチングとお客様のニーズ
ノンアルコールドリンクを取り扱う際の大前提として大切にしていることは、お店のコンセプトに合致しているか(コンセプトマッチング)と、顧客のニーズに合致し、かつさらに掘り起こせるかだと考えています。
そして具体的にアイテムを選択する上で、大切にしているのが”美味しさ”です。
ただこの場合の”美味しさ”は、選択者一人が美味しいと感じるアイテムを選ぶのではありません。できる限り多くの方、さらには誰もが美味しいと感じるアイテムを選ぶことが、テーブルマリアージュを盛り上げることにつながっていくと考えています。

「少し飲ませて」からテーブルマリアージュが始まった
先日も、こんなことがありました。
ご家族4名のお客様のうちお一人様がノンアルコールドリンクコーディネート(3杯)、他3名様がワインコーディネート(3杯)というテーブルでのことです。ノンアルコールのお客様のお好みをうかがいながらお飲み物を提供していると、そのお客様が「美味しい!」と言葉を発するたびに、他のご家族の方々が「少し飲ませて〜」ということになりました。
一人だけノンアルコールドリンクという、少し沈んでいた雰囲気が一変し、テーブルマリアージュの盛り上がりが確立するということになっていきます。この時に、より望ましいことが、誰もが美味しいと感じるアイテムであるということだと考えています。
結果、このお客様は、それぞれ3杯のファーストオーダーから皆様4杯となりました。アルコールの方もノンアルコールの方も同じように楽しむという理想的なテーブルマリアージュとなり、お店にとっても喜ばしいことになり、お見送りの際には皆様一様に「楽しかった!」のお言葉をいただけることになりました。
一つ付け加える選択のポイントとして、“甘い”ではなく”美味しい”を大切にとも考えています。
「美味しかった」から「楽しかった」へ。何を目指すべきなのか
「美味しかった! ワインも良かった!」と言っていただくことは、とても光栄なことです。
一方で、世界中の情報が携帯端末で一瞬にして取得できてしまう今の時代、何を目指すべきなのか。

それを今、レストランサービスの現場から考えると、美味しいのは当たり前の大前提として、いかに「美味しかった」から「楽しかった」と言っていただける環境を整えるかということだと考えるようになりました。
そして、それを確立していく上で最も重要で必要不可欠なことの一つが、ソフトドリンクではないノンアルコールドリンクを充実させていくことではないかと思います。
先にも述べました、ご家族4名様のお席。ノンアルコールドリンクの充実なくしては、「美味しかった」で終わっていたかもしれないということです。ノンアルコールドリンクを充実させていくこと、それをしっかりと選択していくことは、「美味しかった」の先にある「楽しかった」への、最も重要で必要不可欠なことなのだと思っています。
ワインのことを最も詳しく教えてくれるのは、誰か
数十年前にバーテンダーだった頃、お酒のことを知りたければ先輩バーテンダーの下に足繁く通ったことを思い出します。
その後、ワインインポーターの営業職として従事していた頃は、フランスワインを中心にワインに詳しい方はもちろんソムリエの有資格者の方々であり、その方々にさらなる情報を持って、ワインアドバイザーの有資格者の営業職が営業に出向いていた時もありました。
そして令和の今。ワインをはじめお酒のことを最も詳しく、丁寧かつ正確に教えてくれるのは、ソムリエでもバーテンダーでもなく、ChatGPTだと言っても過言ではないかと思います。
例えば、あるワインがわからない時は、画像をChatGPTに送れば、事細かに相性の良いお料理まで、ほんの数秒、数十秒で教えてくれます。

打倒AIから、AIと共存へ
それ故、自分としては、つい最近までは”打倒AI”の気持ちで、ChatGPTでは表現されないことをお客様にお伝えしていくことに価値を見出せるように考えるようになっていました。
これは、何かわからないことがあれば直ぐに携帯端末で検索するということに対しての、対抗心の現れでもあったのかもしれません。
ですが最近は、少し違うことに気付きはじめました。ChatGPTで検索しても現れないこと、検索内容だけではなくそれをベースとして、さらにストーリーを組み立ててお客様にお伝えすることで、「楽しかった」というお言葉をいただけることに導かれていく。ChatGPTの情報が完全でないことに気付けること、そこからさらに自らの経験を加えてストーリーを語れることが、今取り組むべきことなのかなと思います。
生産者を訪ねる。ストーリーを語るために今できること
具体的には、自らが体験し経験に繋げてストーリーを語る。今できることは、生産の現場に自ら訪問し感じることに重きを置くことを、今まで以上に大切に考えています。
情報が一瞬にして整理され取得できてしまう今、その情報の正確性の判断、ストーリーと温もりを加えて語り伝えること。正に”AIと共存”していくことが、今できることだと思っています。
そして今は、国内の生産者の素晴らしさを伝えられるよう、できる限り生産者の皆様のところへ訪問することを心掛けています。

さらに最近は、シェ・フルール横濱のドリンクメニューがアルコールとノンアルコールが半分半分であることと同様、一日あれば午前中にワインや日本酒のアルコール、午後には果汁やお茶などの生産者訪問をするようにもなってきました。このことにも、自分自身が驚いている次第です。
総括:美味しさとストーリー、その土台にあるもの
今回の題目とテーマの総括としては、ポイントは美味しさとストーリーということから、そのベースにはテーブルマリアージュを目指しているか。それを大前提として、アルコールとソフトドリンクではないノンアルコールドリンクを同等に取り扱い、お客様に楽しんでいただきたいという意志があるか。それによって、選択するアイテムも違ってくるように思います。
次回は、機会があれば究極のペアリングについて、取りまとめてみたいと思います。賛否両論あるところかもしれませんが、良い機会でもありますので、楽しみながら原稿を仕上げてみたいと思います。
執筆者プロフィール
本郷 孝人(ほんごう たかひと) シェ・フルール横濱
ビバレッジコーディネーター
1971年、神奈川県横浜市生まれ。高校卒業後、大学在学中より横浜のホテルのバーからバーテンダーとして料飲サービス業のキャリアをスタート。都内のホテルに勤務したのち、総合酒類小売業、輸入ワインおよび洋酒業、総合食品酒類卸業で、ヴーヴ・クリコ・ジャパン、MHD(モエ・ヘネシー・ディアジオ)などを経て、約25年間にわたり営業職として従事。2019年より飲食店サポート業務を手がけつつ、再びサービス業界へ。福岡のフレンチ「アニオン」、箱根リトリートホテル&ヴィラ by 温故知新、ウエスティンホテル横浜のメインダイニング「アイアンベイ」での勤務を経て、2025年8月よりシェ・フルール横濱の現職。バー、ホテル、インポーター、ディストリビューター、量販店、そしてサービスの現場―飲料をめぐるあらゆる立場を経験してきた視点から、「テーブルマリアージュ」というキーワードを軸に、料飲のあり方を探求し続けている。



