「お水で大丈夫です」と言われる前に
- 本郷 孝人

- 5月15日
- 読了時間: 7分
更新日:5月19日
ドリンク売上を上げるための、コンセプトマッチングという発想
連載|テーブルの仲人の考えごと 第4回
ドリンク売上を上げるために最も大切なのは、「主観を入れない」こと――そのために必要なのが「コンセプトマッチング」です。店のコンセプトをスタッフ全員で共有し、料理6:飲料4の黄金比を目指すことが、その店らしいドリンクメニューと売上構成につながります。第4回は、「コンセプトマッチング」と「料理6:飲料4の黄金比」という二つの軸から、原点回帰の発想を読み解きます。
横浜のホテルバーからキャリアを始め、インポーター営業、総合食品酒類販売、量販店の現場管理、ラグジュアリーホテルのソムリエまで、料飲の現場を多角的に歩んできた本郷孝人が、テーブルを囲むゲストの“あいだ”に立つ仲人の視点から、日々のサービスで考えていることを綴る連載。第4回のテーマは「ドリンク売上向上」。職務柄、長くついて回ってきたこのミッションに、現場のサービスマンはどう向き合うのか。「コンセプトマッチング」と「料理6:飲料4の黄金比」という二つの軸から、原点回帰の発想を読み解きます。
文|シェ・フルール横濱 本郷 孝人
記事構成|Apoptosis 尾崎 眞子
目次
ドリンク売上を上げる、最も大切な原則――「主観を入れない」という考え方
コンセプトマッチングとは何か
料理6:飲料4の黄金比を、どう設計するか
3杯セットで設計する、テーブルマリアージュのプライシング
「お水で大丈夫です」というジレンマ
情報収集の継続が、ジレンマを解く
総括――「明日の話をしよう」と「温故知新」のあいだで
ドリンク売上を上げる、最も大切な原則――「主観を入れない」という考え方
ドリンクの売上を上げる――これまでの経験の中で、職務柄、常について回ってきたミッションでした。
ドリンクの売上を上げる方法は様々あるかと思いますが、私が最も大切にしていることは、「主観を入れないこと」です。

ドリンクのメニューを構成するにあたり、選定した人が美味しいと思うもの、売れると思うもの、人気があるもの、経験値、そして資本関係などの制約等があります。これらは、往々にして主観的な選定にもなってしまいます。
そこで、主観的選定にしないために必要なこと──それが、そのお店のコンセプトをオーナーはじめ関係スタッフ全員と共有し、そのコンセプトに沿ったアイテムを選定して、メニューを構成していくということです。
コンセプトマッチングとは何か――オーナー・スタッフ全員でコンセプトを共有し、メニューに落とし込む
この「コンセプトマッチング」が、ドリンクの売上を上げていく上で、第一に必要なことであると考えています。
これまでのドリンク売上向上のミッションの中で、多くの場合、前任者の主観的な構成のメニューからコンセプトマッチングを図ることで、ドリンクの売上は向上させることができたということからも、エビデンスのある事実であると認識しています。

時に、コンセプトが不明確であったり、不十分であったりしたケースでは、コンセプトを見直したり、肉付けしたりすることで、ドリンクだけでなくお料理(フード)、プライシング、店舗内装を見直すきっかけにもなります。これは店舗売上全体を押し上げることにもつながる効果をもたらし、強いベクトルが形成され一体感を生み、心地よい空間となっていくと考えています。
もちろん多くの弊害が発生することもあります。ですが、ドリンク売上向上という目的を達成するために必要なことが「コンセプトマッチング」であり、この不変的な事実を確立し、共有させておくことが大切なことであると、今、強く思っています。
料理6:飲料4の黄金比を、どう設計するか――「お料理があっての飲み物」という出発点
一般的にお料理とアルコールを含めたお飲み物を提供しているお店の、目標とする売上構成比を考えたことはありますか?(何かに特化した飲食店は別として)

これまで職務柄、様々なホテルやレストランをはじめとした飲食店に関わってきた中で、今、辿り着いているのが、料理と飲み物の売上構成の黄金比6:4の飲食店が心地よいお店なのかな、ということです。
この6:4がなぜ黄金比なのか。売上構成を目標にして共有することが、お店の売上と利益の向上のベクトルを強くし、その結果へとつながる──ということです。
このあたり、自分自身の経験談からお話しするには、かなりセンシティブな表現にもなりますので、先々クローズの機会でもあれば、お話しできたらと思います。キーとなるのは、ヒューマンリソース(HR)と、少し古くはなりますがコーチングです。
話を戻しますが、6:4の考え方のそもそもの基本となっているのが、「お料理があっての飲み物」ということにあります。
そしてそのお料理が美味しいのは当たり前として、そのお料理に合わせて飲み物を用意する。その時に大切なことが、プライシング(価格設定)です。
それは、お客様単価の目標設定をお料理6:飲み物4にして、構成の軸を作っておくということで、お客様にメッセージを発信するということでもあります。
3杯セットで設計する、テーブルマリアージュのプライシング――ワイン4,800円、ローアル3,900円、ノンアル3,300円
シェ・フルール横濱で例えると、ランチのメインとなるスタンダードコースの料金は6,500円。飲み物のメインとしていきたい各カテゴリーの3杯セットの料金は、次のように設定しています。
シェ・フルール横濱・3杯セットのプライシング
ワイン(アルコール):4,800円
ローアルコール:3,900円
ノンアルコール:3,300円
このプライシングで、お客様にテーブルマリアージュを楽しんでいただきたいと考え、ご準備しています。飲み物一杯の価格は、これをベースに導き出されることになります。
「お水で大丈夫です」というジレンマ――6:4の永遠の課題と向き合う
時に、飲み物の価格が高いと口コミに書き込まれることもあります。これは、魅力ある飲み物のメニューになっていないということでもあります。
ひいては時に、飲み物のメニューも見ることなく、「お水で大丈夫です」と言われることもあります。この言葉を頂戴すると、せめて飲み物のメニューだけでも見ていただきたいなと考えつつ、一瞬凹むこともあります。ですが、これが6:4の永遠のジレンマ、永遠の課題なのかなと思っています。
情報収集の継続が、ジレンマを解く――現場に立ち続けるという選択
永遠のジレンマ、永遠の課題をクリアにするために必要なこと。
過去に、権限委譲や後進育成の職務に携わることもありましたが、今、強く感じているのは、現場に立ち、情報収集を継続することがとても大切であるということです。

年齢的に一般的には、若い世代に任せないといけない世代なのかもしれません。ですが、決して若い世代に任せられないということではなく、生涯現役、共に楽しみ切磋琢磨するほうが、楽しいかなと思っています。
「10年一昔」という言葉がありますが、それが5年一昔、3年一昔となり、世界を震撼させたパンデミックを経て、昨年と同じことが今できない、それが保証されない時代になってきているように感じています。
総括――「明日の話をしよう」と「温故知新」のあいだで
いつの日からか、体験談や経験談を語ることで人と関わることのが果たして良いのかどうかを考えるようになりました。
過去に囚われることなく、「明日の話をしよう!」が今のテーマです。
その一方で、自分の座右の銘は、故きを重んじ新しきを知る「温故知新」でもあります。
人生色々、様々なしがらみのようなものがありますが、如何に楽しくできるかを考え、日々精進し、職務に取り組んでいれば、必然的に売上や利益は上がって然るべきと思います。
執筆者プロフィール
本郷 孝人(ほんごう たかひと) シェ・フルール横濱
ビバレッジコーディネーター
1971年、神奈川県横浜市生まれ。高校卒業後、大学在学中より横浜のホテルのバーからバーテンダーとして料飲サービス業のキャリアをスタート。都内のホテルに勤務したのち、総合酒類小売業、輸入ワインおよび洋酒業、総合食品酒類卸業で、ヴーヴ・クリコ・ジャパン、MHD(モエ・ヘネシー・ディアジオ)などを経て、約25年間にわたり営業職として従事。2019年より飲食店サポート業務を手がけつつ、再びサービス業界へ。福岡のフレンチ「アニオン」、箱根リトリートホテル&ヴィラ by 温故知新、ウエスティンホテル横浜のメインダイニング「アイアンベイ」での勤務を経て、2025年8月よりシェ・フルール横濱の現職。バー、ホテル、インポーター、ディストリビューター、量販店、そしてサービスの現場―飲料をめぐるあらゆる立場を経験してきた視点から、「テーブルマリアージュ」というキーワードを軸に、料飲のあり方を探求し続けている。



