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「血が通い、魂の込められたメニュー」とは何か

更新日:5月18日

ソムリエが実践する、ドリンクメニュー作成の極意


連載|テーブルの仲人の考えごと 第3回

ドリンクメニューとは、お店のメッセージとコンセプトをゲストに届けるための重要なツールです。シェ・フルール横濱の本郷孝人が実践する「血が通い、魂の込められたメニュー」とは何か。メニュー作成の5つの極意と、アルザスの老舗レストランのワインリストに学んだ「故郷への愛をメニューに込める」という哲学を解説します。


横浜のホテルバーからキャリアを始め、インポーター営業、総合食品酒類卸売、量販店の現場管理、ラグジュアリーホテルのソムリエまで、料飲の現場を多角的に歩んできた本郷孝人が、テーブルを囲むゲストの"あいだ"に立つ仲人の視点から、日々のサービスで考えていることを綴る連載。

第3回のテーマは「ドリンクメニュー作り」。お店という舞台で、メニューはどんな役割を果たすのか。「血が通い、魂が込められたメニュー」とは何かを、現場のサービスマンの視点から読み解きます。


文|シェ・フルール横濱 本郷 孝人 記事構成|Apoptosis 尾崎 眞子


目次

  • お店選びは、舞台選び──準備200%でお客様を迎えるという考え方

  • メニューは、舞台の演目である

  • 「血が通い、魂の込められたメニュー」とは何か──5つの極意

  • アルザスの老舗レストランで見たワインリスト

  • 横浜という街への愛を、メニューに盛り込む

  • 総括──メニューはサービスマンの作品であり、結果を残すための道具



お店選びは、舞台選び──準備200%でお客様を迎えるという考え方


皆様は、食事をするときにどのような基準でお店を選んでいますか。

味、予算、立地、雰囲気、ロケーション、シェフやスタッフ、口コミ(書きコミ)、ブランド等、お店選びの要素は様々あると思います。自分は、それらを全て踏まえたうえで、いつの頃からか「お店は舞台である」と思うようになりました。



まずは、数ある飲食店の中からお店を選んでいただけたことに感謝しつつ、美味しいお料理とお飲み物を提供することは当然のこととして、さらにその日の食事を楽しんでいただくためにできることを全てやり切る──そんな考え方に至りました。


毎日、出勤して開店準備を始めます。駆け出しの頃、「準備を完璧に! 準備100%!」と言われたことがありました。ですが、それが100%では物足りなくなり、様々な仕事を経験する中で、120、150、180となっていき、今は日々準備200%でお客様をお迎えするという気持ちで取り組み、できることなら300%を目指したいなという気持ちになってきています。


そして、お店の開店、お店の看板を「Open」にする──この瞬間が堪らなく好きで、まさに舞台の幕が開くような高揚感が込み上げてきます。

このあたりの準備のお話は、かなり奥が深くもなりますので、いずれの機会に掘り下げてお話しできたらと思います。今回は、話をメニューに戻していきます。



メニューは、舞台の演目である──お店とお客様が共に作る、テーブルマリアージュの構図


数ある飲食店の中から選んでいただけたお客様に、お店のメッセージ、コンセプトを伝える大切なツールの一つがメニューということになります。今回は、特にお飲み物のメニューに特化してお話ししていきたいと思います。


シェ・フルール横濱ではアルコールとノンアルコールを対等に配置することで、お酒を飲む人と飲まない人両方に喜ばれるメニューとなっている
シェ・フルール横濱ではアルコールとノンアルコールを対等に配置することで、お酒を飲む人と飲まない人両方に喜ばれるメニューとなっている

シェ・フルール横濱では、ご予約の時点でお料理のコースを決めていただいています。これを言い換えれば、お客様はお店という舞台を選び、何を食べるか=何を観るかが、すでに決まっているということになります。


ここに、お店のメッセージとコンセプトを盛り込んだメニューをご用意する。お店側が演者でお客様が観客という二次元の構図ではなく、メニューに記載されたアイテムを演目と捉えていただき、お客様も観客として、さらには演者として、その日の食事を楽しみ盛り上げるべく、それを演出するためにアイテムを選んでいく。そうして、それぞれのテーブルという空間を三次元、四次元のテーブルマリアージュの世界へと導き、お店全体が一つの舞台として完成していく──そう考えています。


それゆえに、お店のメッセージやコンセプトがしっかりと伝わる、血が通い、魂の込められたメニューが大切だということになってくるのかと、考えています。



「血が通い、魂の込められたメニュー」とは何か──メニュー作成の5つの極意


お店という舞台で、お客様がメニューからアイテムを選び、お客様自らが観客として、演者として、カスタマイズして唯一無二の物語、テーブルマリアージュの世界を作り上げていく。そのために、血が通い、魂が込められたメニューが必要だと考えています。


少し固い話になりそうなので、言い換えると、楽しくワクワクするようなメニューということです。そのために必要なことは何か。「極意」というには当たり前のことばかりで、烏滸(おこ)がましいことではありますが、メニュー作りの参考になれば幸いです。


ドリンクメニュー作成、5つの極意

  1. お店のメッセージが盛り込まれているか

  2. お店のコンセプトが盛り込まれているか

  3. 全てのアイテムに意味があるか(惰性のアイテムが記載されていない)

  4. お料理との価格バランスがとれているか

  5. 一目瞭然であるか


今のところはこのように考えていますが、そもそも個人的にも、飲食店のメニューを見ることが大好きで、そこから見える人間模様を想像することがとても楽しく感じています。


メニューがないバーやカウンターのお寿司屋さんも、バックバーに並んだお酒、ショーケースに並べられたネタを眺めている時間も、とても楽しい時間です。少し話が外れましたが、メニューはこれから始まる至福の時間の物語にとって、とても大切な役割を果たすということなのかなと、今、感じています。



アルザスの老舗レストランで見たワインリスト──故郷を冒頭に置くという、強いメッセージ


お料理の一皿一皿やメニューが料理人の方々にとってある種の作品であるように、ソムリエによるワインリストやサービスマンによるドリンクメニューも、ある種の作品であると考えています。

やはりしっかりとしたメニューが用意されているお店は、自分の経験上、単刀直入に率直に言って、いいお店である可能性が高いと言えると思います。



これまで見てきたワインリストの中で、今でも印象深く記憶に残っているのは、1998年に訪問した、フランスのアルザス地方にある老舗レストラン「オーベルジュ・ド・リル(L'Auberge de l'Ill)」のワインリストです(当時は3つ星、現在は2つ星)。


それまでフランス料理店でのワインリストといえば、シャンパン、白ワイン、赤ワインとページが進むのが通説だと思っていたところに、1989年に世界最優秀ソムリエコンクールで優勝したセルジュ・デュプス(Serge Dubs)氏は、同店のワインリストの冒頭に、故郷でもあるアルザス地方のワインをリストアップしたワインリストを作成していたのです。


この強いメッセージは、当時の自分にとってはとても衝撃的なことで、今のメニュー作成に対する考え方の基本となっています。



横浜という街への愛を、メニューに盛り込む──地元・日本・世界、それぞれの良いものを取り入れる発想


その考え方を基本として、地元や日本国内でコンセプトにマッチして、良いもの、美味しいものがあれば、積極的に取り入れるようにしています。

そして、世界的にも有名な貿易港でもある横浜というイメージを大切に、コンセプトにあった世界中の良いものがあれば、こちらも積極的に取り入れるようにしています。



これが、かつてセルジュ・デュプス氏がワインリストの最初に故郷のアルザスへの愛を盛り込んだように、自分としては故郷の横浜への愛を盛り込んだメニューであると感じてもらえるように、日々アップデートできたらと考えています。



総括──メニューはサービスマンの作品であり、お客様の心に届き結果を残すための道具


作品としてのメニューが鑑賞できるような「メニューの博物館」のようなところがあったら、面白く、楽しく勉強にもなるだろうなと思う一方で、メニューが何のために存在し、良いメニューとして必要とされるのかと考えれば、それはやはり、お店の売上と利益となるよう、自己満足だけの独りよがりにならないメニューを作成し、しっかりとお客様の心に届き、響き、結果を残すということだと考えています。


一口にメニューと言っても、様々な形態、形式があり、とても奥深い分野の話だと思っています。先々機会があれば、もっと掘り下げたお話ができたら嬉しく思います。



執筆者プロフィール

本郷 孝人(ほんごう たかひと) シェ・フルール横濱 ビバレッジコーディネーター


1971年、神奈川県横浜市生まれ。高校卒業後、大学在学中より横浜のホテルのバーからバーテンダーとして料飲サービス業のキャリアをスタート。都内のホテルに勤務したのち、総合酒類小売業、輸入ワインおよび洋酒業、総合食品酒類卸業で、ヴーヴ・クリコ・ジャパン、MHD(モエ・ヘネシー・ディアジオ)などを経て、約25年間にわたり営業職として従事。2019年より飲食店サポート業務を手がけつつ、再びサービス業界へ。福岡のフレンチ「アニオン」、箱根リトリートホテル&ヴィラ by 温故知新、ウエスティンホテル横浜のメインダイニング「アイアンベイ」での勤務を経て、2025年8月よりシェ・フルール横濱の現職。バー、ホテル、インポーター、ディストリビューター、量販店、そしてサービスの現場──飲料をめぐるあらゆる立場を経験してきた視点から、「テーブルマリアージュ」というキーワードを軸に、料飲のあり方を探求し続けている。



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