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「ノンアルコール」って、何度以下のことですか?——酒税法・アルコール度数・脱アルコール・コンブチャの基礎知識

「ノンアルコール」という言葉、よく使いますし、よく使われています。でも、法律上の定義と私たちが日常的に持っているイメージの間には、意外なギャップがあります。ノンアルコールエージェンシー・Apoptosisとしての学習も兼ねて、整理してみました。


01 まず、日本の酒税法の仕組みから



日本では、飲料のアルコールに関するルールは「酒税法」という法律で定められています。その中心となる定義は、シンプルです。


酒税法上の「酒類」とは、アルコール分1度(1%)以上の飲料のことです。つまり、1%未満であれば、法律上はお酒ではありません。



この「1%」という境界線が、ノンアルコール飲料の定義の根拠になっています。アルコール分1%未満の飲料には酒税がかかりません。そのためノンアルコールビールやノンアルコールワインは、清涼飲料水として扱われ、酒類の製造免許も販売免許も不要です。


ちなみに本みりんもアルコール度数が約14%あるため、酒税法上は「酒類」に分類されます。日常的な調味料でも法律上はお酒、というのは少し驚きですよね。




アルコール度数の区分 ─ 整理するとこうなります


▶ 0.00%

アルコールが検出されないレベル。大手メーカーが「ゼロ」「フリー」と表記するのはこの基準です。

▶ 0.01〜0.99%(1%未満)

酒税法上は「酒類」ではありません。ただし微量のアルコールを含むため、妊娠中・アルコールに敏感な方・運転前は注意が必要です。

▶ 1.0%以上

酒税法上の「酒類」。製造・販売には免許が必要で、酒税も課税されます。


なお、業界の自主基準(酒類の広告審査委員会)では、「ノンアルコール飲料」をアルコール度数0.00%のものと定義しています。法律上の「1%未満」よりも厳しい基準です。さらに、0.01〜0.99%の飲料は「酒類にも自主基準のノンアルコール飲料にも該当しない」グレーゾーンとして存在していて、現行法では明確な分類基準がありません。「ノンアルコール」という言葉一つをとっても、実はいくつかの層があるのです。



02 「脱アルコール」とは何か ─ 製法の違い

ノンアルコール飲料の作り方には、大きく2つのアプローチがあります。「最初からアルコールを作らない方法」と、「いったんアルコールを作ってから取り除く方法(脱アルコール)」です。



脱アルコール製法は、通常のワインやビールを醸造したあとにアルコールだけを取り除く技術です。「本物を作ってから引き算する」アプローチなので、発酵由来の複雑な香りや味わいを比較的保ちやすいとされています。現在、主に3つの手法が使われています。


◆ 減圧蒸留法(真空蒸留法)

気圧を下げることでアルコールの沸点を下げ、低温で蒸留してアルコールだけを取り除く方法。通常の蒸留では熱で香りが飛んでしまうため、「低温・低圧」がポイント。ヨーロッパの脱アルコールワインで広く使われています。


◆ 逆浸透膜法

特殊な半透膜にワインを通し、アルコールと水分だけを分離・除去する方法。その後、除去した水分を戻すことでアルコールだけが抜けた状態にします。風味への影響が少ないとされる一方、設備コストが高い傾向があります。


◆ 揮発性物質回収法

遠心力を使ってアルコールと香り成分を一度分離し、アルコールだけを加熱除去したあとに香り成分を戻す方法。風味の保持を重視した比較的新しい技術です。



一方、「最初からアルコールを作らない」方法としては、発酵をごく初期段階で止める、糖分を少なくして発酵の余地を減らす、アルコールを生成しにくい特殊な酵母を使う、などがあります。アルコール度数を完全に0.00%にしやすいのが利点ですが、発酵由来の複雑な風味を引き出すことが難しいケースもあります。


脱アルコール製法の進化が、ノンアルコール飲料の品質を大きく変えました。「本物から引いたもの」という感覚が、飲んだときの奥行きに繋がっています。


03 コンブチャのアルコールはどこから来るのか

コンブチャ(KOMBUCHA)は、発酵由来のノンアルコール飲料です。紅茶などのお茶に砂糖を加え、スコビー(SCOBY)と呼ばれる酵母と酢酸菌の共生体を加えて発酵させます。



面白いのが、コンブチャの発酵プロセスです。まず酵母が糖を分解してアルコールを生成します(アルコール発酵)。次に酢酸菌がそのアルコールを食べて酢酸(酸味の成分)に変換します(酢酸発酵)。この2段階が同時並行で進むため、最終的にアルコールがほとんど残らない、という構造になっています。


酢酸菌の大好物はアルコールです。コンブチャの中では、酵母がアルコールを作り、酢酸菌がそれを食べ続けています。自然の力でアルコールが消費される、面白いメカニズムだなと思います。


結果として、通常のコンブチャのアルコール度数は0.5%前後、多くは1%を大きく下回ります。日本の酒税法上も「清涼飲料水」として販売が可能です。




コンブチャと酒税法 ─ 注意点


▶ 通常のコンブチャ(アルコール1%未満)

酒税法上は清涼飲料水。製造・販売に酒類免許は不要。日本で販売されているほとんどのコンブチャはこのカテゴリーに該当します。


▶ ハードコンブチャ(アルコール1%以上)

発酵を意図的に進めてアルコール度数を高めたもの。欧米では4〜7%のものも流通していますが、日本では酒類に分類されるため、製造・販売には酒類製造免許が必要です。日本国内での流通はまだ限られています。


▶ コンブチャを自宅で作る場合

通常の製法であればアルコール度数が1%を超えることはほぼありませんが、発酵が進みすぎると超える可能性もゼロではありません。また、無免許での酒類製造は酒税法違反になるため注意が必要です。



ちなみに「コンブチャ」という名前について。日本では昆布茶を思い浮かべる方が多いですが、全くの別物です。英語のKOMBUCHAは、発酵茶飲料を指します。


名前の由来には諸説あります。有力なのは「コンブチャの培養で生まれるゼラチン状のフィルムが海藻(昆布)に似て見えたため、英語話者が昆布茶(kombucha)と混同した」という説。ほかにも「韓国語で菌を意味する『KOM』から来ている」という説、「韓国語の『金のお茶』が音として伝わった」という説など、複数の俗説が入り混じっています。真相は定かではありませんが、いずれにしても日本の昆布茶とは無関係なのは確かです。日本では「コンブチャと言ったら昆布茶と思われる」問題があるので、「発酵スパークリングティー」と表現されることも多いです。



04 国によって基準が違う ─ 海外との比較

「ノンアルコール」の定義は国によって異なります。日本の「1%未満」が世界標準ではありません。


◆ 日本

アルコール1%未満が「酒類」の対象外。1%未満であれば法律上はノンアルコール飲料として販売可能。


◆ アメリカ

0.5%未満を「ノンアルコール」として扱う基準が一般的。コンブチャも0.5%以下であれば一般飲料として販売可能。


◆ EU

1.2%未満をアルコール飲料の対象外とする基準があり、ノンアルコール飲料の定義が日本より広めです。


◆ イギリス

段階的な区分が設けられています。「アルコールフリー(Alcohol Free)」は0.05%以下、「脱アルコール(De-Alcoholized)」は0.5%以下、「低アルコール(Low Alcohol)」は1.2%以下。日本の「1%未満=ノンアル」という二分法とは異なる、細かい分類になっています。



海外ブランドのノンアルコール飲料を日本に輸入する場合、現地では「ノンアルコール」と表示されていても、日本の基準(1%未満)を満たしているかどうかは別途確認が必要です。特にイギリスやEUでは「脱アルコール」「低アルコール」という概念が細かく分類されており、ラベルに記載された実際のアルコール度数を自分の目で確認する習慣がとても大切です。


「ノンアルコール」という言葉は、万国共通の定義を持ちません。輸入ボトルを扱うときは、国ごとの基準の違いと、ラベルに記載された実際のアルコール度数を必ず確認するようにしています。


05 Apoptosisとして、この知識をどう活かすか

私たちが扱うノンアルコール飲料の中には、脱アルコールワインやコンブチャのように「発酵という工程を経た」ものが多くあります。これらは製法上、微量のアルコールを含む可能性がゼロではありません。

お客様であるシェフやソムリエが、妊娠中のゲストや宗教上の理由でアルコールを避けているゲストに提供する場面もあります。「ノンアルコールです」と伝えることの責任を意識する必要があると感じています。


商品を選定する際には、アルコール度数を確認したり、製法・製造国の基準・ブランドの管理体制を確認するようにしています。「美味しいかどうか」だけでなく、「自信を持って提供できるかどうか」も、Apoptosisのキュレーションの一部です。


ノンアルコールドリンクの語彙やカテゴリーの整理は、まだ業界全体として発展途上です。こういった基礎知識を積み上げながら、私たちも学び続けていきたいと思っています。

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