美味しいだけでは、足りない。Apoptosisチームのノンアルコールアイテムの選び方
- Mako Ozaki

- 4月17日
- 読了時間: 7分
更新日:6 日前
感動があるか?食事に寄り添えるか?テーブルに物語を添えられるか?「美味しい」は、当たり前なんだと日々感じます。
毎週新しいノンアルコール商品を試飲していますが、その半数以上がリストに加わることはありません。これは厳しさではなく、誠実さだと私は思っています。

01 美味しいだけでは、なぜ不十分なのか?
日本のノンアルコール飲料の市場はこの数年で急速に進化しました。品質が上がり、「美味しくない」商品を見つけることのほうが正直難しいくらいです。だからこそ、私たちの選定基準を「美味しさ」だけに置いてしまうと、それは基準にすらならないと感じます。
Apoptosisチームが毎週試飲を続けているのは、美味しいアイテムをスクリーニングするためではありません。飲んだ瞬間に驚きを覚えるような感動があるか。お料理と一緒に提供された時に、ドリンクが前に出てしまうのではなく、調和したり増幅させたり、良いコンビネーションになりうるか。このドリンクがお客様に提供されたとき、シェフやソムリエはどう語るだろうか。

そんなふうに自分たちに問いかけながら試飲をしていると、世の中に流通しているノンアルコールドリンクの多くが「悪くない」ことに気づきます。そして「悪くない」は、自信を持って提案できるものではありません。
◆ 感動があるか
一口飲んで、何かが変わる瞬間があるか。記憶に残る体験か。エクスクラメーションマークが付くほどの驚きや発見があるかを問います。(ただ、味覚は非常に個人的な感覚でもあるので、偏りがないように気を付けなければとも思っています)
◆ 食事に合うか
ドリンク単体で美味しくても、料理と並んだとき互いを高め合えるか。ノンアルコールペアリングとしての意味があるかを考えます。前に出過ぎていたり、逆に謙虚すぎたりしないか。ここは自分たちだけでは発見しづらい点もあるので、お客様にフィードバックをいただくこともよくあります。
◆ 相性の良いお客様が思い浮かぶか
ファインダイニングなのか、カジュアルビストロなのか、ウェルネスコンセプトのホテルなのか。「このレストランのコンセプトに合致するな」「このホテルの支配人の方がこういうアイテムが欲しいと言っていたな」そんなことを思いめぐらせています。
◆ ストーリーがあるか
産地、製法、開発者の哲学。例えばナチュールワインが好きで好きで仕方がなくて、味わいや香りをphなどの数値的な観点から分析して、ノンアルコールで100レシピ以上実験して、構築したという変態的な方(褒め言葉です)が作った、とか素敵なストーリーだなと思います。
02 お茶と向き合うことがスタート地点だった
振り返ってみると、私たちがこの目線を持てるようになったのは、ノンアルコールアイテムを選ぶためではなく、純粋に、美味しいお茶を作ろうとしてきたからだと思います。
Apoptosisは自社ブランドとして、スパークリングティーとボトリングティーの開発に取り組んできました。製造の現場に入り、ブランドのコンセプトを言語化し、試作を重ね、失敗しました。「もっと余韻を長くしたい」「この渋みは料理の邪魔をしないか」「ゲストがこの色を見たとき、何を感じるか」。そういう問いと向き合い続けた結果として、良いノンアルコールドリンクが持つべき骨格のようなものが、ちょっとずつ言語化できるようになってきました。
選定眼を手に入れようとしていたわけではなく、お茶と向き合っていたら、気づいたらそこにありました。そんな感覚に近いです。
様々なノンアルコールブランドの製造担当者やブランドオーナーとの会話、そして現場のシェフやソムリエとの会話の積み重ねも、その感覚をさらに養ってくれました。「このボトルをどうサービスしたいか」「食中に提案できる強さがあるか」「このグラスに注いだとき、どう見えるか」。そういった問いは、いつだってオフィスの外からやって来ます。
03 試飲から導入まで ─ チームで積み上げるプロセス
私たちの選定プロセスは、(実際こんな綺麗な感じではないですが)大まかにこのようなステップになっています。
STEP 1 チームによる試飲
良いノンアルコールアイテムを見つけたらまずは取り寄せて、試飲。カテゴリにも寄りますが、大体50%はここで候補から外します。
STEP 2 パートナーシェフ・ソムリエとの共同試飲
ノンアルコールアイテムを、信頼するシェフやソムリエと共に評価します。現場の視点でのフィードバックで新たな探究ポイントが生まれることも多いです。
STEP 3 カタログインの判断
全ての評価を統合し、エンドユーザー(レストランのゲスト)に自信を持って届けられると判断したものだけをApoptosisのカタログに加えます。
このプロセスはとても流動的です。試飲の場でシェフから「この酸味は日本の出汁との相性が良いかもしれない」「この渋みがこういう素材と生きる」という一言が出ると、ペアリングの探究が始まり、それが次の選定基準に影響します。カタログは完成品ではなく、常に更新する必要があります。また、カタログにはあえて載せず、お客様のリクエストに応じてサーチ・ご提供する小規模生産のブランドも数多く存在しています。
04 シェフやソムリエと一緒に、「良いもの」を探す
商品選定はチーム内だけで完結するものではない、と最近改めて感じています。

「こういう食材を使ったコースに合うノンアルコールを探している」「アップサイクルの文脈があるアイテムはないか」。お客様であるシェフやソムリエからそういったリクエストをいただくことがあります。そのとき私たちは、既存のカタログから答えを選ぶだけでなく、一緒にサーチをはじめます。
市場を調べ、サンプルを取り寄せ、場合によっては現場で一緒に試飲します。そのプロセスを通じて、お客様が求めているものの輪郭が見えてきて、私たち自身の選定眼もアップデートされます。
料飲業界の第一線を走るシェフやソムリエの方々の感性と現場感覚が加わることで、私たちでは辿り着けなかった「良さ」に出会えることがあります。これもまた、Apoptosisを形作る大切な一部です。
05 AIには代替できないこと、でもAIから学んでいること
ときどき「AIを使えば効率化できるのでは?」と聞かれます。
実はApoptosisチームでは、事務作業や情報整理などにClaude、Gemini、GenSpark、ChatGPTなど、積極的に活用しています。その処理能力の高さや進化のスピードには、日々驚かされています。もはや「AIがすごい」ではなく、「AIを使いこなせているか」が問われる時代だと感じています。
だからこそ、逆説的に見えてくるものがあります。今週届いた新しいボトルを開けて、その香りが立ち上がる瞬間の感動は、データで測れません。その飲み物がこの秋の献立の中でどう組み合わせられるかという直感は、シェフとの会話の中にしかありません。そしてその施設のホスピタリティと、このボトルが共鳴するかどうかは、こういった地道なプロセスの中にしかないのです。
私たちが届けているのは、液体ではありません。「Apoptosisと一緒にこれを選んで、お客様に届けている」という関係性です。AIが得意なことはAIに任せ、人にしかできないことに集中する。それが今のスタンスです。
06 とはいえノンアルコールは未開拓地
一方で、私たちが直面している課題もあります。
ボキャブラリーがまだ足りません。
ワインには「タンニン」「余韻」「ミネラル」といった言葉があります。日本酒には「辛口」「旨口」「キレ」があります。では、スパークリングティーのなんともいえない青い香りや余韻を、どう表現すべきでしょうか。ノンアルコールドリンクにふさわしい語彙は、まだ十分に整備されていません。(できていません)
お話しするたびに、新しい悩みが生まれます。
悩みでもあり、良いことでもあります。シェフとペアリングを試みるたびに「なぜこの組み合わせが機能するのか」という問いが生まれ、ソムリエとサービスを話し合うたびに「どう語ればゲストに伝わるか」という問いが深まります。コンブチャだと昆布茶と思われる方がいらっしゃるので、発酵スパークリングティーという言い方が良いのでは?など。
カタログは、今も成長途上。
来週には新しい商品が加わるかもしれません。来月には、また新たな発見があります。「完成したカタログ」になることはないと思います。
この領域はまだ若いです。ノンアルコール飲料とのペアリング文化が成熟するには、もっと多くの対話と実験が必要です。私たちはその過程を、シェフやソムリエの皆さんと共に歩んでいきたいなと思っています。
興味のある方はぜひ試飲の場に遊びにきてください。美味しいボトルがたくさん待っています。ほら、たくさん飲んでも、酔っ払わないですし!(笑)















