神楽坂『餐事』が切り拓く、ローカル×ノンアルコールの可能性
- Mako Ozaki

- 3月20日
- 読了時間: 11分
更新日:20 時間前
──全国から厳選したクラフトビールと一緒に、どんなノンアルを並べるか?

神楽坂駅から徒歩1分。大正時代から続いたお豆腐屋の跡地をリノベーションした、クラフトビアバー「餐事(sanZi)」は、飲食業界未経験の3人が立ち上げた店舗だ。「日本の地のもの」をキュレーションするという明確なコンセプトのもと、日本全国の個性的なクラフトビールやクラフトサケと、スパイス料理を合わせて提供している。
餐事の濵﨑さんと相澤さんへのインタビューを通じて、飲食未経験から始まった店舗立ち上げの経緯、クラフトビールを軸とした「日本の地のもの入門編」というコンセプト、そして「料理と合う」を基準にしたノンアルコールドリンクのセレクト方法と、それが顧客体験や店の印象にどう影響するのかを聞いた。
飲食未経験の3人が神楽坂「坂上」を選んだ理由

餐事を運営するのは、異なるバックグラウンドを持つ3人のメンバーだ。彼らに共通していたのは、飲食店での勤務経験ではなく、「料理や飲み物への純粋な興味」だった。全国を巡ってレストランや生産者を訪問し、Instagramで発信することが好きで、それが共通の趣味として3人をつないだという。
当初は表参道で間借りでスタートし、実績を積み重ねて約2年前に現在の神楽坂に本格オープンを果たした。選んだ場所は、神楽坂の中でも「坂上」と呼ばれるエリアだ。坂下とは異なり、喧騒も落ち着いたエリアで、30代から40代の落ち着いた雰囲気のお客様が多い。
物件は、大正時代から続いた「山本とうふ店」の跡地をリノベーションしたもの。地域に愛された店舗の記憶を受け継ぎ、新参ながらも地域コミュニティにスムーズに溶け込めるように努めている。現在は濵﨑さんがマネジメントやメディア、イベント企画を、相澤さんが接客やビール企画を担当し、それぞれの得意分野を活かした運営を行っている。

店名の「餐事(sanZi)」には、複数の意味が込められている。中国語で「食事をする」ことを指すことから「みんなでご飯を食べる」という思いとともに、ロゴには漢数字の「三」に「zi」という表記を組み合わせて、その思いを語ってくれた。
「『zi』は『地のもの』を意味しています。素敵な生産者さんやプロダクトを作る業者さんといった『地のものを作る人』、それを実際に食べたり享受する『お客様』、そして僕ら餐事のメンバーである『発信する者』──この三者が綺麗な三角形でつながるような関係性を作りたい、という想いを込めています」(濵﨑さん)

「日本の地のもの・入門編」──日本のクラフト飲料や工芸品をつなぐ橋渡し
餐事のコンセプトは、「日本の地のもの」を体験として提供することだ。例えば全国各地のマイクロブルワリーと日本の消費者あるいは世界からの旅行者をつなぐ橋渡し役を目指している。
「地方の小規模な生産者さんは、代表者が営業も広報も経営も一人で担っていることが多い。東京のメインエリアでの営業もなかなか難しい。そうなってくると、やっぱり広報の部分とか、僕らがお手伝いできるところっていろいろとあるだろうなと思った」(濵﨑さん)
さらに、料理を盛る器やカトラリー、グラス類にも日本の工芸品を選定。例えば福島県の大堀相馬焼(松永窯)の器を使用するなど、飲み物だけでなく、空間全体で「日本の地のもの」を体験できる設計となっている。玄人向けの専門店として敷居を高くするのではなく、初めて触れる方向けの「入門編」というポジショニングをとることで、クラフト飲料や国産の器などの新しい世界へ踏み出すきっかけを提供している。
しかし、立ち上げ当初は様々な商品を取り扱おうとするあまり、ブランドの軸が定まらない時期もあったという。

「当初は、いろいろなお酒を置いていたが、方向性が曖昧になりそうでもっとシンプルにしたいと思った。常時8タップあるクラフトビールを軸に据えて、今はアルコールの品数を絞った分、国内のノンアルコールも充実させることができ、地のものを発信するというコンセプトが明確になった」(濵﨑さん)
軸足をクラフトビールやクラフトサケなどに置きつつ、アルコールを飲まない人も一緒に楽しめる空間を作るため、「日本の地のもの」 であるノンアルコールを充実させている。誰もが居心地よく過ごせる環境づくりが、現在の餐事を作っている。
「今日は休肝日」から「パートナーとの乾杯」まで──広がるノンアルコールシーン
クラフトビアバーでありながら、ノンアルコールに力を入れるようになった背景には、濵﨑さん自身の体質も関係している。
「自分はお酒は好きだが強くない方なので、ノンアルコールも結構飲む機会が多かった。ノンアルコールの可能性をもっと広げたいと思っていた時に、恵比寿の料理屋さんでApoptosisの緑茶スパークリングに出会って、『これだ!』と思った」(濵﨑さん)
この出会いを機に、ノンアルコールメニューの拡充を本格的に開始した。現在でも新商品を試飲し、定期的にメニューを入れ替えながら、常に新しい可能性を探り続けている。現在では、アルコールを飲めない顧客だけでなく、「今日は休肝日」や「この後にジムに行く予定」という常連客、パートナーがこだわりのクラフトビールを楽しんでいる横で、美味しいドリンクを味わいたいというお客様にも支持されている。

ペアリングを重視した商品選定──「甘すぎない」が成功の鍵
餐事では現在、Apoptosisのほうじ茶スパークリングをはじめ、ココファームの桃ジュースや西地食品の柑橘果汁(ゆず)、孝芳堂のジンジャーエールなど、個性豊かなノンアルコールドリンクを提供している。そのセレクト基準は明確だ。
「甘すぎるものは食事と合わない。ペアリングを考えると、料理の味を引き立てるバランスが重要。それが選定基準のひとつです」(相澤さん)

そしてApoptosisのほうじ茶スパークリングティーは、餐事オリジナルラベルで提供されており、ノンアルコールの中でも特に万能な存在である。
「スパークリング要素でさっぱりしてるけど、ほうじ茶でちゃんと焙煎の重みもあるので、チーズのような繊細なものも合うし、麻婆豆腐など温かくてガツンとしているものにも合う。合わせやすくておすすめしやすいです」(相澤さん)

ラベルにもこだわりが宿っている。「枯木生葉」と名付けられており、お茶の茎が使い物にならず大量に捨てられていたのを、焙じて売り出したことでほうじ茶が誕生したエピソードから、「再び息を吹き返す様」をイメージしている。地のものの魅力を発掘し、お客様に届ける餐事のスタンスが現れている。
ノンアルのセレクトで、店のこだわりとおもてなしを表現
ノンアルコールドリンクの充実は、アルコールを飲まない顧客の満足度を上げるだけでなく、店全体の印象づくりにも大きく役立っている。
相澤さんは、ノンアルコールドリンクを頼む人はペアリングの楽しみをあまり感じられないことが多いと指摘する。だからこそ、そこに楽しみを見いだせる店があってもいいのではないか。小規模ながらユニークな生産者を応援するという餐事のポリシーには、もちろんノンアルコールも含まれている。
定番のオレンジジュースやウーロン茶だけを置く店とは、お客様が受ける印象が大きく違う。相澤さんは、その違いがお客様の体験に与える影響について、次のように語る。

「ノンアルコールを飲まれるお客様はもちろんですが、アルコールを飲まれるお客様にも、メニューを見た時に、ノンアルコールにまで気を使ってるんだという印象を持っていただけます。『こだわりのある店なんだ』という感覚を、言葉にならない形でお客様の記憶に残せるんだと思います」(相澤さん)
さらに、こだわりのノンアルコールドリンクは、顧客単価アップにもつながっている。アルコールと比べても遜色ない価格で提供できるこだわりのノンアルコールは、店の経営面でも大切な役割を果たしている。
”生産者をつなぐ”を体現した周年クラフトビール
商品の開発にも積極的だ。開店1周年記念として開発した「ほうじ茶クラフトビール」は、その代表例である。

日本らしさを感じることができ、かつクラフトビールに負けない個性が発揮できるよう、様々な茶葉をApoptosisメンバーと試した結果、「炭火茎ほうじ茶」を採用。静岡ローカルで受け継がれる炭火焙煎技術を生かした茶葉で地域性を表現し、増加する外国人観光客への訴求も狙った。常連だけでなく新規のお客様からも高い評価を得ることに成功している。
「周年でオリジナルビールを作るなら、ただの記念じゃなくて、ちゃんと意味のあるものにしたいと思っていました。餐事の由来に立ち返って『生産者と生産者をつなぐ』形を考える中で、ちょうど進んでいたオリジナルラベルのほうじ茶の企画とも重なり、お茶を使ったビールにしようと決めました。土地柄的にも海外のお客様も増えており、そことの相性も含めて、自然と全部が噛み合った感覚でしたね。お客様の反応もとても良かったです」(相澤さん)
解像度・熱狂・因数分解で読み解くノンアルの未来
ノンアルコール市場の今後について、濵﨑さんは独自の視点で分析する。キーワードは「解像度」だ。
「ノンアルコールの『解像度』を上げることが市場拡大の鍵。ワインのように、お客様が自分の好みや今日の気分を店側に伝えられるレベルまで細分化されれば、ノンアルコールはもっと伸びる」(濵﨑さん)

ワインであれば「白か赤か」「辛口か重めか」といった共通言語があるが、ノンアルコールはいまだ「ソフトドリンク」と一括りにされがちだ。ティー、シロップ、発酵飲料など、カテゴリを因数分解 (細分化)し、それぞれの個性やシーンにあったアイテムを伝えることが、美味しいシーンをつくる第一歩となる。
「ファンが多くいる文化も遡ってみると、誰か一人のとてつもない熱狂から生まれているという面があると思う。熱狂がないものにマスはないと思うし、広がることはないと思う」(濵﨑さん)
市場を作るのは「オタク」的な熱狂だ。ワインや日本酒にマニアがいるように、ノンアルコールの世界でも深い知識と愛着を持つコミュニティが生まれれば、市場は確実に成熟していく。
ただし、「ノンアルコール」という大きなくくりのままでは、嗜好性がバラバラになってしまい、コミュニティは形成されにくい。もっと細かくカテゴリーを分類することで、それぞれに熱狂的なファンが生まれ、コミュニティが育つ土壌ができる。濵﨑さんが指摘する「解像度を上げる」とは、餐事がクラフトビールを通じて実践している、キュレーションの精度を高めることに他ならない。
今、ノンアル市場に足りないのは“橋渡し”の役割
ではノンアルコール市場の変化は、どこから始まっているのだろうか。相澤さんは現場の実感として、次のように語る。
「(ノンアルコール市場の)大きな渦(うねり)が始まっていると思います。スマドリ(スマートドリンキング)のCMの影響も大きく、メディアで特集も組まれているのも見かけます。しかし、現場レベルではまだ浸透していない。アプローチがまだまだ見つかっていないという感じがします。だからこそ、Apoptosisのような、現場と生産者をつないでいくような働きが本当に大事なんだろうなと思います」(相澤さん)
良い商品があっても、商品とストーリーを顧客に届ける「橋渡し」がなければ市場は育たない。生産者、キュレーター、飲食店が連携し、それぞれの役割を果たすことが、ノンアルコール市場のさらなる成長には不可欠であろう。
【餐事のポイント】
明確なコンセプト:「日本の地のもの入門編」として、クラフトビールを軸に据え、ノンアルコールは補完的に配置。アルコールの品数を絞った分、国内のノンアルコールも充実させている。
ペアリング重視のセレクト:「甘すぎない」「食事と合う」を最優先基準に。定期的にメニューを入れ替え、パートナーと対話しながら新しい可能性を探り続ける。
店の印象づくりに貢献:こだわりとストーリーのあるノンアルコールを置くことで、「新しい選択肢に出会えるお店」という印象を顧客に与え、顧客単価アップにもつながる。
【餐事で提供中のApoptosis商品】
Sparkling Japanese Tea -Roasted Green- 「枯木生葉」
定番商品のほうじ茶スパークリングティー。お食事とペアリングのしやすいオールラウンダー的存在。
孝芳堂のジンジャーエール
甘口・辛口・極辛・爽口の4種類のうち辛口と極辛を採用し、辛さの度合いを選ぶ楽しさを提供。自家製ジンジャーエールとも併用し、バラエティを豊かにしている。
ノンアルコールの最新トレンドを知りたい・おすすめのドリンクを試したい方はご連絡ください
Apoptosisは、ホテル・レストラン向けに多彩なノンアルコールドリンクを開発・キュレーション・提供しています。Contactからお気軽にお問い合わせください。
店舗情報:
餐事(sanZi)〜クラフトとスパイス〜
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6丁目26 YMビル 101
取材協力:濱崎翔さん、相澤長明さん
取材日:2026年2月19日
























